「美女ありき」"No Woman Born" C・L・ムーア

訳:小尾芙佐
絶世の美女といわれた、歌手でありダンサーであるディアドリは劇場の火事によって命を奪われたかに思われたが… という話し。
テクノロジーが進歩して行く中で、そのテクノロジーの影響で人間がどう変化して行くか? あるいはそれとどう対応して行くか? という極めてSF文学的なテーマの作品。
解説には「火事で身体を失った女性の精神面での再生にあり」と書いてあるように、その通りの作品なのですが、面白いと思ったのは、そのディアドリと、彼女を再生させた男マルツアは、再生に長く時間をかけたために、精神面的なレベルで心を共有してしまっている。そして共有しているにも関わらず、マルツアは悲観し続け、ディアドリは希望を持ち続けるのである。一般にも子供を産み育てる女性は、男性よりも精神面も生命力も強いと言われている。ディアドリとマルツアの態度の違いは、女性と男性の強さの違いであると言いたかったのではないか? C・L・ムーアは女性作家であるし、一番のポイントはそこなのだと思う。
それと、ディアドリがいかに美女であったかを表す文章がいいです。

完全無欠な美女はいつの世にも存在するが、彼女たちは伝説として語り継がれない。ディアドリの無類の美しさは、未完成の魅力の容貌の下からにじみでる耀きのせいだ。

アンソロジーに入れるには少し長いのがネック。
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