「ベムがいっぱい」"Wacky World" エドモンド・ハミルトン

訳:南山宏
 僕自身の好きなタイプの物語、SF的だったり、怪奇的だったり、幻想的だったりするものが好きな理由の原点には、小学生のときに体験した4っつの作品の影響が大きく今に残っているからだと思います。一つめは光瀬龍の『作戦NACL』です。それ以後眉村卓や、福島正実の書いたジュブナイルSF小説を読んで、いまだに学園物のエンターテイメントが好きです。二つめは星新一の『おーいでてこい』です。この短いながらも恐るべきどんでん返しを暗示して終わるラストに衝撃をおぼえました。三つめは映画『スターウォーズ』で、それまで全く観たことのないイマジネーションあふれる映像の数々に圧倒されました。そして四つめが、NHKで放送されていたアニメ『キャプテン・フューチャー』でした。私は『キャプテン・フューチャー』から、物語の展開の面白さや、展開の妙を学んだような気がします。
 その『キャプテン・フューチャー』の原作者であるエドモンド・ハミルトンの短編を読むのは初めてでした。
 内容は、火星に初めて降り立った地球人が二人。彼らは火星で様々な姿をした異形の火星人たちと遭遇する。どうして火星にはこんな世界が広がっているのか? といったもの。
 奇想と言うか、今でいうバカSFの一種なんですが、ハミルトンはキャプテン・フューチャーを書きつつ、こんなセルフパロディを書いていたなんて素晴らしすぎる。
 〈超人〉と呼ばれるタコ型の火星人は、H・G・ウェルズの『宇宙戦争』なのでしょうが、他の火星人にも元ネタがあるのでしょう。
 現在はあまり奇抜な火星人も登場しなくなったし、映像作品もあふれている今、火星に精神放射線が降り注いだとしたら、どんな火星になっていることでしょう?
 十本足の紫色の火星人のセリフが素晴らしい。

「人間を拷問するチャンスがなかったら、われわれはどうやって、自分たちの悪魔的性質に忠実に生きていけるんだ?」

あと、「ベムがいっぱい」なんて邦題にせず、原題"Wacky World"にならって、「狂った世界」とか「風変わりな世界」あるいは「ばかげた世界」でも良かったと思う。 
宇宙戦争 (創元SF文庫)